困ったときに、誰に何を言えばいいのか

困ったときに、誰に何を言えばいいのか派遣先にも、苦情を処理する義務があります

読了の目安 5分2026年8月時点の制度にもとづきます

企業の派遣活用派遣先派遣先責任者派遣元

ひとことで言うと

派遣先にも、苦情を処理する義務があります(労働者派遣法40条1項)。「派遣会社に言ってください」では終わらせられません。

窓口の担当者名は、労働者派遣契約に書いてあります。異動でいなくなっていることがあるので、いま誰なのかを確かめておいてください。

内容によって、動く会社が変わります。その場のこと(作業・設備・安全)は派遣先、雇用のこと(給料・有給・契約)は派遣元です。

いちばん危ないのは、苦情が来ないことです。声が上がらないまま辞めるのが、いちばん多い形だからです。

どちらが動くかは、内容で決まります

誰が動くか 派遣先が動く(その場のこと) ・作業のやり方、指示の出し方 ・道具や設備、席や環境 ・休憩が取れない、労働時間の管理 ・食堂や更衣室が使えない 派遣元が動く(雇用のこと) ・賃金、残業代、通勤手当 ・有給休暇、社会保険 ・契約の更新、待遇の説明 ・次の就業先 両方が動く:安全衛生・ハラスメント防止。どちらか一方では止められないからです どの内容でも、派遣先が「派遣会社へ」で終わらせることはできません(40条1項)
分け方の基準は「その場にいるからこそできることか」「雇っているからこそできることか」です。

受けたときの手順

この順で進めます
  1. その場で聞き取る

    いつ、どこで、何があったか。事実を確かめます。この段階で結論を出す必要はありません。

  2. 派遣先で対応するか、派遣元に渡すかを分ける

    作業・設備・安全なら派遣先。賃金・契約・待遇なら派遣元です。迷ったら両方に共有してかまいません。

  3. 派遣元に連絡する

    派遣先で対応する内容でも、派遣元には伝えてください。雇用主として把握しておく必要があります。

  4. 対応した内容を、本人に返す

    ここが抜けると「言っても変わらない」になります。変えられない場合も、その理由を伝えてください。

  5. 派遣先管理台帳に記録する

    苦情の申出を受けた年月日、内容、処理した状況を記載します(42条1項)。派遣が終わった日から3年保存です。

記録は義務です

派遣先管理台帳には、苦情の申出を受けた年月日・苦情の内容・処理した状況を書くことになっています。「口頭で聞いて終わり」にすると、記録が残りません。あとから行政の調査が入ったときに、対応したこと自体を示せなくなります。

いちばん多いのは「言われない」形です

苦情が上がらない職場は、うまくいっているとは限りません。言いにくいだけのことがあります。

声が上がりにくい職場
  • 指示を出す人が1人で、その人に言いにくい
  • 苦情の窓口が誰か、本人に伝わっていない
  • 前に言ったとき、返事が返ってこなかった
  • 「派遣会社に言ってください」と言われた経験がある
声が上がる職場
  • 指示を出す人とは別に、聞く人が決まっている
  • 初日に「困ったらこの人」と名前で伝えている
  • 言ったことに対して、変えたか変えないかを返している
  • 派遣元の担当者が定期的に来て、話す場がある

実務では私たちが職場に伺うのは、この「言いにくさ」を埋めるためです。本人が派遣先に言いにくいことを、代わりに伝えます。言いにくいのは当然です。雇っている会社が別だからです。

言い方を変えると、内容が変わります

「何か困っていることはありますか」では、たいてい「大丈夫です」が返ってきます。聞き方を変えると、出てきます。

聞き方を具体的にする
  • 作業「いま、いちばん時間がかかっている作業はどれですか」

    困りごとではなく作業の話として聞くと、答えやすくなります。手順の問題が出てきます。

  • 相手「分からないとき、いつも誰に聞いていますか」

    名前が出てこなければ、聞ける相手が決まっていません。ここがいちばん多いつまずきです。

  • 環境「席や道具で、使いにくいものはありますか」

    設備の話は言いやすい入口です。ここから他の話につながることがあります。

なぜ、派遣先にも義務があるのか

派遣では、指示を出す会社と雇っている会社が別です。だから、どちらか一方だけでは解決できない困りごとが必ず出ます。

設備が危ないという話は、派遣元には直せません。現場にしか直せないからです。反対に、時給の話は派遣先には決められません。払っているのは派遣元だからです。

もし派遣先に義務が無ければ、起きている場所には権限がなく、権限がある会社にはその場が見えないという状態になります。それでは止まりません。

だから法律は、両方に苦情を処理する義務を置きました。あわせて、派遣先責任者を選び、管理台帳に記録することまで決めています。

よくある勘違い

こう思われがちです
  • 派遣スタッフのことは、全部派遣会社の責任
  • 苦情は派遣会社に回せばいい
  • 口頭で聞いて対応すれば、記録は要らない
  • 苦情が来ないなら、うまくいっている
  • 契約が終われば、記録も残さなくてよい
実際はこうです
  • 就業に関することは派遣先の義務です
  • 派遣先にも処理する義務があります(40条1項)
  • 台帳に日付・内容・処理状況を書きます(42条1項)
  • 言いにくいだけのことがあります。聞き方を変えてください
  • 派遣が終わった日から3年保存です

派遣を受け入れる企業は、ここだけ覚えてください

派遣先の担当者へ

確かめてほしいのは1つだけです。労働者派遣契約に書いてある苦情の窓口の担当者が、いま社内で誰なのか。異動でいなくなっていることがあります。

そして、指示を出す人と、聞く人は分けてください。同じ人だと、その人についての話が出てきません。

派遣で働く人にも、関係があります

派遣で働く方へ

派遣先にも苦情を処理する義務があります。「派遣会社に言ってください」で終わらせることはできません。

言いにくいときは、派遣元の担当者に伝えてください。派遣元から派遣先に伝わります。苦情を申し出たことを理由にした不利な取扱いは、禁止されています。

まとめ

この記事で覚えてほしいこと
  • 派遣先にも苦情を処理する義務がある(40条1項)。派遣会社へ回して終わりにはできない
  • 内容で動く会社が変わる。その場のことは派遣先、雇用のことは派遣元
  • 苦情が来ないのは、うまくいっているとは限らない。言いにくいだけのことがある
TODAY'S ACTION / 今日からできる、たった1つのこと

労働者派遣契約書を開いて、「苦情の申出先」に書いてある担当者名が、いま社内にいるかを確かめる。

異動していたら、その時点で窓口が機能していません。派遣元に伝えて、契約書の記載を直してください。直すのは担当者に一言伝えるだけです。あわせて、いま来ている方にも新しい窓口の名前を伝えてください。

そもそも義務がどう分かれているのかは、別の記事で1枚にまとめています。

派遣先が守ること、派遣元が守ること

※ 2026年8月時点の制度にもとづいています。根拠:労働者派遣法40条1項(派遣先の苦情の処理)・41条(派遣先責任者)・42条1項(派遣先管理台帳の記載事項と3年保存)・36条(派遣元責任者)・49条の3第2項(申告を理由とする不利益取扱いの禁止)。厚生労働省「派遣先の皆さまへ 派遣社員を受け入れるときの主なポイント」(LL271029 派需08)、「派遣先が講ずべき措置に関する指針」、「労働者派遣事業関係業務取扱要領」で確認しています。聞き方の例は法令の定めではなく、私たちが現場で使っているものです。

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