「合う人が来ない」は、渡した情報の量で決まります
「合う人が来ない」は、渡した情報の量で決まります経験年数とソフト名だけでは、人は選べません
「条件は合っていたのに、合わなかった」が起きるとき、原因の多くは依頼のときに渡した情報の量です。
派遣スタッフを受け入れる会社(派遣先)が候補者を選ぶことは、通常の労働者派遣では認められていません(紹介予定派遣を除く)。選ぶのは派遣会社(派遣元)です。選ぶ人が知らないことは、選ぶ基準に入りません。
渡すのは、経験年数と使えるソフトだけではありません。忙しくなる時期/誰に聞けばいいか/前任者が何に困っていたか。この3つが特によく抜けます。
時間にすると、電話で5分足すかどうかの話です。
「経験3年以上・Excel可」だけでは、人は選べません
派遣の依頼でよく出てくるのは、経験年数、使えるソフト、勤務時間、通勤範囲です。どれも必要です。ただし、これらは候補を絞る条件であって、誰にするかを決める材料ではありません。
条件を満たす人が5人いたとき、その5人の中から誰を選ぶか。ここを決めているのは、条件表に書いていない部分です。
契約書に書くことと、選ぶために伝えることは別です
法律上 労働者派遣契約には、業務の内容、就業場所と組織単位、指揮命令者、期間、就業日、始業と終業の時刻と休憩時間、苦情の処理に関する事項などを定めることになっています(労働者派遣法26条1項)。
もうひとつ、派遣先には契約を結ぶ前に渡さなければならない情報があります。同じ仕事をしている自社の社員(比較対象労働者)の賃金などの待遇情報です(26条7項)。これが渡っていないと、派遣元は契約を結べません(26条9項)。ただしこれは待遇をそろえるための情報で、人選のための情報ではありません。
実務では この契約書の項目を埋めれば人選ができる、というわけではありません。契約書は「何をしてもらうか」を決める書類で、「誰にするか」を決める書類ではないからです。
契約書の業務内容は「一般事務」の一語で終わっていることがあります。これは契約として間違いではありません。ただし、この一語から人を選ぶことはできません。契約書とは別に、口頭でも構わないので中身を渡してください。
渡すと人選が変わる5つのこと
1つめは作業の名前です。「一般事務」ではなく「請求書の発行と発送」「受注データの入力と納期の確認連絡」と書きます。作業の名前で書くと、経験の合う人が分かります。
2つめは忙しくなる時期です。月末だけ処理量が増えるのか、期末に一気に来るのか。忙しい時期の動き方は、人によってはっきり差が出ます。
3つめは一緒に働く人数と、聞ける相手です。10人の部署と2人の部署では、必要な動き方が違います。
4つめは頼まない仕事です。契約の外にある作業を先に伝えておくと、入ってから「これもお願い」でもめません。
いちばん抜けるのは「前任者が困っていたこと」
5つめが、いちばん効いて、いちばん抜けます。前にその席にいた人が、何に困っていたか。
たとえば「電話が多くて手が止まる」「他部署からの依頼が直接来る」「マニュアルが古くて使えない」。どれも、条件表には絶対に出てきません。
ここを渡しておくと、派遣元はその状況で止まらない人を選べます。渡さないと、条件は合っているのに1か月で辛くなる人が来ます。
「引き継ぎ資料がない」「担当者がいつも忙しい」。こうした話は、派遣元に伝えると印象が悪くなると思われがちです。実際は逆です。
先に分かっていれば、それを前提に人を選べます。知らずに送り出して、あとで合わないと分かるほうが、双方にとって損失が大きくなります。
同じ依頼を、情報の量だけ変えるとどうなるか
架空の例で説明します。ある会社の経理部が、2026年10月から事務スタッフを1名受け入れることにしました。仕事は請求書の発行と入金の確認です。
- 依頼「経理事務の経験2年以上、Excelができる方」
- 派遣元は条件に合う人から、通勤時間が近い人を選ぶ
- 入ってから、月末3日間の処理量が想定と違うと分かる
- 本人が「聞いていた話と違う」と感じ、更新しない
- 依頼「経理事務の経験2年以上、Excelができる方」
- +「月末3日は処理量が3倍になります」
- +「名義違いの入金が毎月あり、推測で処理せず確認が必要」
- 派遣元は、確認を先に取れる人を選ぶ
- 月末の山を越えられ、契約が続く
条件は同じで、依頼の文章が2行増えただけです。この2行が、人選の材料になります。
よくある勘違い:細かく伝えると、人が来なくなる?
「大変そうな職場だと思われて、断られるのでは」と心配される方がいます。
実務では逆のことが起きます。先に伝えたほうが、決まってから辞める人が減ります。知らずに入って1か月で辞めるより、最初から分かって入るほうが続きます。
そして、派遣元にとっては候補が減ることより、選べる材料が増えることのほうに価値があります。渡した内容で候補が減ったとしても、残った人は合っている可能性が高くなります。
派遣を受け入れる企業は、ここだけ覚えてください
依頼のとき、条件のあとに「前にこの席にいた人が困っていたのは、こういうことでした」と1つ足してください。この一言がいちばん人選を変えます。
あわせて、忙しくなる時期と迷ったときに聞く相手も伝えておくと、受け入れの初日から動き方が変わります。
派遣で働く人にも、関係があります
紹介を受けたとき、「忙しくなる時期はいつですか」「分からないときは誰に聞けばいいですか」の2つを派遣元の担当者に聞いてください。
答えが出てこない場合は、派遣先から情報が渡っていない可能性があります。就業前に確認してもらうよう頼んで構いません。
まとめ
- 選ぶのは派遣元(紹介予定派遣を除く)。派遣元が知らないことは、選ぶ基準に入らない
- 契約書の項目とは別に、作業の名前/忙しい時期/聞ける相手/頼まない仕事/前任者が困ったことを渡す
- 言いにくいことほど先に渡す。知らずに送り出すほうが、双方の損失が大きい
次の依頼メールに「前任者が困っていたこと」を1行だけ足す。
思いつかない場合は、その席にいた人か、隣の席の人に「あれ、何がいちばん面倒でした?」と聞いてください。出てきた答えをそのまま貼るだけで構いません。1行で、来る人が変わります。
そもそも何を頼めて何を頼めないのかは、別の記事で整理しています。
「任せられる仕事」と「任せられない仕事」※ 2026年9月時点の制度にもとづいています。根拠:労働者派遣法26条1項(労働者派遣契約に定める事項)、26条6項(特定を目的とする行為をしないよう努める義務)、26条7項・9項(比較対象労働者の待遇情報の提供)、31条、34条(就業条件等の明示)、40条5項(派遣元の求めに応じた情報提供への配慮)、厚生労働省「派遣先が講ずべき措置に関する指針」「労働者派遣事業関係業務取扱要領」。記事中の会社と依頼内容は説明のための架空の例で、実在の企業ではありません。渡す情報の整理は法令の定めではなく、私たちが実務で見てきたものです。
事務職の人材派遣を承っています
私たちは、事務まわりの人手についてのご相談をお受けしています。この記事のような制度の整理も、その中のひとつです。発注が決まっていない段階のご相談でもかまいません。
事務派遣について見る
