派遣料金は「時給×時間」ではない

派遣料金は「時給×時間」ではない安い見積には2種類ある。見分けられるようになるための読み方

読了の目安 7分2026年8月時点の制度にもとづきます

給与・お金マージン率社会保険有給休暇同一労働同一賃金労使協定方式

ひとことで言うと

派遣料金に入っているのは5つです。スタッフの給与/社会保険料/有給休暇の費用/募集・研修・労務管理の費用/派遣元の利益。

社会保険料と有給休暇の費用は、割合が法律で決まっていて削れません。だから安い見積は「スタッフの給与を削ったもの」か「募集・研修・労務管理の費用を削ったもの」のどちらかです。

スタッフの給与を削った安さは、募集の集まり方と定着に跳ね返ります。総額だけを並べても、どちらなのかは分かりません。

「1,720円」は、スタッフの取り分ではありません

「A社は1,850円、B社は1,720円。じゃあB社で」。見積を並べて、そう決めたことはないでしょうか。その130円が何の差なのかは、その紙からは分かりません。

派遣料金に入っているもの ご請求する派遣料金(例:1時間あたり1,720円) スタッフの給与 いちばん大きい部分。時給として支払われる 社会保険料 会社が負担する分 有給休暇の費用 休んだ日にも支払う分 募集・研修・労務管理などの費用 求人広告、面談、研修、給与計算、日々のフォロー 派遣元の利益 ここだけを削る余地は大きくない ※ 箱の大きさは項目を並べたもので、比率を表したものではありません。比率は業務内容・エリア・期間で変わります。
いちばん大きいのはスタッフの給与です。ただしそこだけを見ても、料金の高い・安いは判断できません。

旅行のパッケージ料金に似ています。表示されている金額には、交通も宿も保険も入っている。安いプランが「宿のランクを落とした」のか「保険を外した」のかで、意味はまったく違います。

そして、この中には削れないものがあります。

健康保険と厚生年金は、本人と会社が半分ずつ。給与明細から引かれている額と同じくらいを、派遣元がもう一方で払っています。労災保険は全額が会社負担です。割合は法律で決まっているので、「社会保険料を安くしました」という値引きは存在しません。

有給休暇も同じです。取得した日は働いていませんが、賃金は支払われます。その分は、料金のどこかに入っています。

だから、安い見積には2種類あります

同じ「安い」でも、中身が違う A型:スタッフの給与を下げた B型:募集・研修などの費用を抑えた ・応募が集まりにくくなる ・欠員が出たとき、代わりが決まらない ・条件の良い職場へ移ってしまう ・数か月後に「増額のご相談」が来る 安さが、人の定着として跳ね返る ・研修や面談の回数が減る ・稼働後のフォローが薄くなる ・困ったときの窓口が遠くなる ・ただし、業務が単純なら影響は小さい 合う業務なら、選んでよい安さ
B型が悪いわけではありません。任せる業務によっては、こちらが合理的な選択になります。

問題はA型です。スタッフの取り分を下げて出した安さは、募集の集まり方と定着に、そのまま出ます。入ってこない、続かない、辞めたあとの補充も決まらない。半年後に「増額のご相談」という形で戻ってくることもあります。

B型は、選んでよい安さです。手順が決まっていて判断がほとんど要らない業務なら、研修やフォローの厚みはそこまで必要ないかもしれません。任せる中身と釣り合っているかどうかで決まります。

ただし、賃金には下限があります

「A型なら際限なく安くできるのか」というと、そうではありません。

派遣スタッフの待遇の決め方は、法律で2つのどちらかを選ぶことになっています。派遣先の同じ仕事をしている人と釣り合わせる派遣先均等・均衡方式(30条の3)か、国が毎年示す職種ごとの賃金額を下回らないようにする労使協定方式(30条の4)。

労使協定方式なら、就業地の指数を掛け、退職金に相当する分も上乗せして比べる決まりです。つまり「相場より大きく下げる」ことは、そもそもできません。

これは発注する側にも意味があります。大きく安い見積が出てきたら、削られているのは賃金以外のどこか、と読めるからです。

方式が2つある理由と、労使協定に何を書くのかは、別の記事にまとめました。派遣料金が下がりにくい理由が分かります。

同一労働同一賃金と2つの方式

見積を比べるときに見る3か所

総額の下を、この順で見る 1 時給以外の項目が、いくつ書かれているか 社会保険料・有給・諸経費が分かれているか。総額だけなら、比べようがない 0個なら要注意 2 割増と通勤手当が、どう計算されるか 残業・深夜・休日の計算式。通勤手当が料金に含まれるか、実費で別か 総額が逆転する 3 途中で人が替わったときの費用 引き継ぎ期間はどう扱うか。追加の請求があるか あとで揉める
1は比較できるかどうか、2は総額、3はその後の関係に効きます。

1が書かれていない見積は、比べようがありません。総額だけを並べても、A型なのかB型なのかが分からないからです。私たちがお見積りに内訳を書いているのは、そのためです。

2と3は、稼働してから効いてきます。とくに通勤手当は、料金に含める会社と実費を別に請求する会社があります。含み方が違う見積を総額で比べると、結論が逆になります。

「安くなった」あとに、何が起きるか

総額だけ 内訳あり 同じ「1枚の紙」でも、比べられるものと比べられないものがある
総額だけの見積は、他社と並べても差の理由が出てきません。

A型の安さを選ぶと、しばらくして同じ席にまた新しい人が来ます。仕事を一から説明します。慣れたころに、また替わります。

そのたびに時間を使うのは、発注した部署の人たちです。値引きで浮いた分は、たいていここで消えます。

この計算は、あとから振り返っても見えません。値引き額は見積に残りますが、説明し直した時間は、どこにも記録されないからです。

よくある勘違い

こう思われがちです
  • 派遣料金が、そのままスタッフの時給になる
  • 総額を並べれば、高いか安いかが分かる
  • 交渉すれば、社会保険料の分も下げられる
  • 安い会社を選んでおけば、コストは下がる
実際はこうです
  • 給与のほかに社会保険料・有給・募集や研修の費用が入っています
  • 通勤手当の扱いが違うだけで、総額の順位は逆転します
  • 負担の割合は法律で決まっています。値引きできる項目ではありません
  • A型の安さは、募集の集まり方と定着で戻ってきます

派遣を受け入れる企業は、ここだけ覚えてください

派遣先の担当者へ

見るのは総額ではなく、その下に項目がいくつ並んでいるかです。0個なら、その見積は他社と比べられません。

次に見積を頼むときは「内訳を分けて出してください」の一言を足してください。この一言だけで、A型かB型かが読めるようになります。

派遣で働く人にも、関係があります

派遣で働く方へ

自分の時給がどう決まっているかは、派遣元が派遣先均等・均衡方式と労使協定方式のどちらを採っているかで変わります。多くは労使協定方式です。

労使協定方式なら、国が毎年示す職種ごとの水準を下回らないことが条件になっています。気になるときは、派遣元の担当者に「うちはどちらの方式ですか」と聞けます。

まとめ

この記事で覚えてほしいこと
  • 派遣料金は「時給×時間」ではない。給与・社会保険料・有給・募集や研修の費用・派遣元の利益が入っている
  • 安い見積はA型(給与を下げた)とB型(それ以外を抑えた)に分かれる。A型は募集と定着に跳ね返る
  • 見るのは総額ではなく内訳の項目数/割増と通勤手当/人が替わったときの費用
TODAY'S ACTION / 今日からできる、たった1つのこと

手元にある派遣の見積を1枚開いて、「時給」以外に項目がいくつ書かれているかを数える。

0個なら、その見積は他社と比べられません。比べているつもりで、総額を並べているだけになります。次に見積を頼むときは、「内訳を分けて出してください」の一言を足してください。

そもそも派遣で頼むのが正しいのか、業務委託にすべきかで迷っているなら、先にこちらです。分けているのは値段ではありません。

派遣と業務委託の違い

※ 2026年8月時点の制度にもとづいています。根拠:労働者派遣法30条の3(派遣先均等・均衡方式)・30条の4(労使協定方式)、健康保険法・厚生年金保険法の保険料負担、労働基準法39条(年次有給休暇)。厚生労働省「派遣労働者の同一労働同一賃金について」(PL301228需01)および「労働者派遣事業関係業務取扱要領」を確認しています。料金の内訳は業務内容・エリア・期間によって変わるため、割合は示していません。

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