直接雇用とフリーランス、どちらが得か
直接雇用とフリーランス、どちらが得か額面では比べられません。見るのは手元に残る額と、守りの厚みです
額面では比べられません。直接雇用の月給の裏では、会社が社会保険料をほぼ同額もう一方で払っています。その分は明細に出てきません。
直接雇用は守りが厚い。フリーランスは裁量が広い。それぞれ、代わりに手放すものがあります。
フリーランスで手取りを出すには、報酬から経費・社会保険料の全額・税金・仕事が無い期間の備えを引きます。ここまで引いて、はじめて同じ土俵になります。
決めるための問いは1つ。「守りを自分で用意できるか」です。用意できるなら裁量を取れます。
同じ「月30万円」でも、中身が違います
だから「フリーランスのほうが単価が高い」は、そのままでは比べたことになりません。引くものを引いてから並べます。
直接雇用のメリットとデメリット
- 仕事の進め方を、自分だけでは決められない
- 働く時間と場所が決まっている
- 収入の上限が、その会社の制度で決まる
- 受ける仕事を選べない
- 異動や配置転換がある
- 毎月決まった額が入る。仕事が無い月も給料が出る
- 社会保険料を会社が半分払う。労災は全額会社負担
- 有給休暇、産休・育休、傷病手当金、失業給付がある
- 会社の都合では簡単に辞めさせられない(解雇の制限)
- 厚生年金なので、将来の受取額が国民年金だけより多い
直接雇用が手に入れているのは、「働けなかったときにも止まらない仕組み」です。病気、けが、出産、失業、老後。どれも本人の努力だけでは避けられません。
フリーランスのメリットとデメリット
- 最低賃金も残業代も有給休暇もない
- 社会保険料を全額自分で払う(国民健康保険・国民年金)
- 失業給付がない。仕事が途切れると収入がゼロになる
- 労災は原則なし(特別加入の制度はあります)
- 病気で働けない期間の給付が原則ない
- 確定申告・請求・営業の手間が毎月かかる
- ローンなどの審査で不利になることがある
- 仕事の進め方を自分で決められる
- 働く時間と場所を自分で組み立てられる
- 受ける仕事を選べる。断ることもできる
- 取引先を増やせば、収入の上限が制度で決まらない
- 仕事に使った費用を経費にできる
- 複数の取引先を持てば、1社が止まっても全部は止まらない
フリーランスが自由なのは、やり方を自分で決められるという意味です。実際の労働時間が短くなるわけではありません。むしろ、営業と請求と確定申告の時間が上乗せされます。ここを見込まずに比べると、あとで割に合わなくなります。
数字で差がつくのは、この5か所です
- 年金厚生年金か、国民年金だけか
直接雇用は厚生年金に入るので、老後の受取額が国民年金だけより多くなります。しかも保険料は会社が半分払っています。フリーランスは国民年金だけなので、上乗せしたいなら国民年金基金やiDeCoを自分で用意します。
- 医療傷病手当金があるか
健康保険には、病気やけがで働けない期間に生活を支える傷病手当金があります。国民健康保険には原則ありません。働けない期間の収入がゼロになるかどうかの差です。
- 失業雇用保険があるか
直接雇用なら、仕事を失ったときに失業給付が出ます。フリーランスにはありません。取引が終われば、その日から収入が止まります。
- 仕事中のけが労災保険があるか
直接雇用は全額会社負担で全員が対象です。フリーランスは原則なし。ただし特別加入という制度があり、加入していれば対象になります。
- 税金給与所得控除か、経費か
給与には、実費を計算しなくても差し引ける給与所得控除があります。フリーランスは実際にかかった費用を経費にします。経費が少ない仕事なら、給与のほうが有利になることもあります。
手取りで比べる順番
- フリーランスの年間の報酬を出す
月ごとに波があるので、12か月分を合計します。仕事が無かった月も入れて平均します。
- 仕事に使った費用を引く
機材、通信、交通、家賃の一部など。実際に領収書が出るものだけです。
- 国民健康保険料と国民年金保険料を引く
直接雇用なら半分は会社が払っています。ここが最も差の出るところです。
- 所得税・住民税を引く
青色申告にすると、要件を満たせば特別控除が受けられます。届出が要ります。
- 仕事が無い期間と、働けない期間の備えを引く
失業給付も傷病手当金もありません。その分を自分で積んでおく必要があります。ここを引かないと、比べたことになりません。
ここまで引いた額と、直接雇用の手取りを並べます。それでもフリーランスが上なら、裁量のぶんは丸ごと得ということになります。
フリーランスにも、守りは増えてきています
2024年11月から、フリーランス・事業者間取引適正化等法が施行されました。取引の相手との関係について、決まりが置かれています。
- 仕事の内容・報酬額・支払期日などを書面や電子メールで明示する
- 報酬は、原則として受け取った日から60日以内に支払う
- 買いたたき、不当なやり直しの要求などの禁止行為
- ハラスメントに関する相談体制の整備
- 継続的な契約を中途解除するときは、原則30日前までに予告する
ただし、これは取引を適正にするための法律です。最低賃金や有給休暇が付くわけではありません。守りの厚みが、雇われて働く場合と同じになったわけではないことは、押さえておいてください。
なぜ、額面だけでは比べられないのか
会社は、月給30万円の人に対して、30万円だけを負担しているわけではありません。社会保険料の会社負担分、労災保険料、有給を取った日の賃金。これらが上に乗っています。
ところが、この部分は明細に出てきません。働いている本人からも見えないのです。
だから「同じ仕事なのに、フリーランスなら30万円もらえる」と聞くと、得に見えます。実際には、その30万円から、会社が負担していた分も自分で払うことになります。
比べるときに額面を並べてはいけないのは、このためです。見えていない部分の大きさが、左右で違います。
よくある勘違い
- フリーランスのほうが単価が高いので、得
- フリーランスは自由に休める
- 経費で落とせるので、税金が安くなる
- フリーランスには社会保険がない
- フリーランスは働き方が自由なので、法律の守りは要らない
- 経費・保険料の全額・税金・備えを引いてから比べます
- 休んだ分の収入はありません。有給はありません
- 経費になるのは実際にかかった費用だけです
- 国民健康保険と国民年金に自分で入ります。全額自己負担です
- 取引を守る法律ができました。ただし労働基準法とは別のものです
決めるための1つの問い
働く人は、ここだけ覚えてください
額面を並べないでください。経費・保険料の全額・税金・仕事が無い期間の備えを引いてから比べます。
そして、いきなり全部を切り替えないという道もあります。雇われて働きながら、副業として小さく始める。守りを持ったまま、裁量の側を試せます。
人に頼む会社は、ここだけ覚えてください
「社会保険がかからないから安い」という理由でフリーランスに切り替えるのは、危ない選び方です。指示を出しながら働かせていれば、実態は雇用や派遣と判断されます。
やり方も含めて任せられるなら、業務委託で頼めます。指示を出したいなら、雇うか派遣で頼むかのどちらかです。ここを曖昧にしたまま始めると、あとで実態が問われます。
まとめ
- 額面では比べられない。会社が払っている分と、守りの厚みが見えていない
- 差がつくのは年金・傷病手当金・失業給付・労災・税金の計算の5か所
- 決めるための問いは「仕事が3か月止まっても、生活が続くか」の1つ
「仕事が3か月まったく無くても、生活が続くか」に Yes か No で答えを書く。
No なら、いまは守りのある形が合っています。Yes なら、裁量を取る選択ができます。迷うなら、雇われて働きながら副業で小さく始めるのが、いちばん失敗しない試し方です。1分で書けます。
そもそも法律上どこが分かれ目なのかは、別の記事で説明しています。契約書の題名では決まりません。
フリーランスと、雇われて働くことの違い※ 2026年8月時点の制度にもとづいています。根拠:健康保険法99条(傷病手当金)、厚生年金保険法、国民年金法、雇用保険法、労働者災害補償保険法33条以下(特別加入)、労働基準法9条・39条、所得税法28条(給与所得控除)・57条(青色事業専従者給与)、租税特別措置法25条の2(青色申告特別控除)、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法。2024年11月1日施行)。保険料率・控除額・給付の条件は年度や制度改正で変わるため、この記事では具体的な金額を扱っていません。個別の計算は市区町村・年金事務所・税務署・お近くの専門家にご確認ください。
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