直接雇用とフリーランス、どちらが得か

直接雇用とフリーランス、どちらが得か額面では比べられません。見るのは手元に残る額と、守りの厚みです

読了の目安 7分2026年8月時点の制度にもとづきます

仕事・キャリア偽装請負社会保険

ひとことで言うと

額面では比べられません。直接雇用の月給の裏では、会社が社会保険料をほぼ同額もう一方で払っています。その分は明細に出てきません。

直接雇用は守りが厚い。フリーランスは裁量が広い。それぞれ、代わりに手放すものがあります。

フリーランスで手取りを出すには、報酬から経費・社会保険料の全額・税金・仕事が無い期間の備えを引きます。ここまで引いて、はじめて同じ土俵になります。

決めるための問いは1つ。「守りを自分で用意できるか」です。用意できるなら裁量を取れます。

同じ「月30万円」でも、中身が違います

「月30万円」の中身を分解する 直接雇用で月給30万円 ここから引かれるもの ・社会保険料(本人の分だけ) ・所得税、住民税 見えていないところ ・会社が同じくらいの社会保険料を別に払う ・労災保険料は全額を会社が払う ・有給、傷病手当金、失業給付が付いている 30万円は「守り込み」の30万円 フリーランスで報酬30万円 ここから全部出します ・仕事に使った経費(機材、通信、交通) ・国民健康保険、国民年金(全額自分) ・所得税、住民税、事業税、消費税 ・仕事が無い月のための備え ・けがや病気で休んだ期間の生活費 30万円は「まるごと自分持ち」の30万円 同じ数字でも、残る額はここまで引かないと出ません
額面を並べると、必ず右が高く見えます。引くものの数が違うからです。

だから「フリーランスのほうが単価が高い」は、そのままでは比べたことになりません。引くものを引いてから並べます。

直接雇用のメリットとデメリット

手放すもの(デメリット)
  • 仕事の進め方を、自分だけでは決められない
  • 働く時間と場所が決まっている
  • 収入の上限が、その会社の制度で決まる
  • 受ける仕事を選べない
  • 異動や配置転換がある
手に入るもの(メリット)
  • 毎月決まった額が入る。仕事が無い月も給料が出る
  • 社会保険料を会社が半分払う。労災は全額会社負担
  • 有給休暇、産休・育休、傷病手当金、失業給付がある
  • 会社の都合では簡単に辞めさせられない(解雇の制限)
  • 厚生年金なので、将来の受取額が国民年金だけより多い

直接雇用が手に入れているのは、「働けなかったときにも止まらない仕組み」です。病気、けが、出産、失業、老後。どれも本人の努力だけでは避けられません。

フリーランスのメリットとデメリット

手放すもの(デメリット)
  • 最低賃金も残業代も有給休暇もない
  • 社会保険料を全額自分で払う(国民健康保険・国民年金)
  • 失業給付がない。仕事が途切れると収入がゼロになる
  • 労災は原則なし(特別加入の制度はあります)
  • 病気で働けない期間の給付が原則ない
  • 確定申告・請求・営業の手間が毎月かかる
  • ローンなどの審査で不利になることがある
手に入るもの(メリット)
  • 仕事の進め方を自分で決められる
  • 働く時間と場所を自分で組み立てられる
  • 受ける仕事を選べる。断ることもできる
  • 取引先を増やせば、収入の上限が制度で決まらない
  • 仕事に使った費用を経費にできる
  • 複数の取引先を持てば、1社が止まっても全部は止まらない
「自由」の中身は、時間ではなく決定権です

フリーランスが自由なのは、やり方を自分で決められるという意味です。実際の労働時間が短くなるわけではありません。むしろ、営業と請求と確定申告の時間が上乗せされます。ここを見込まずに比べると、あとで割に合わなくなります。

数字で差がつくのは、この5か所です

同じ収入でも、ここで差が出ます
  • 年金厚生年金か、国民年金だけか

    直接雇用は厚生年金に入るので、老後の受取額が国民年金だけより多くなります。しかも保険料は会社が半分払っています。フリーランスは国民年金だけなので、上乗せしたいなら国民年金基金やiDeCoを自分で用意します。

  • 医療傷病手当金があるか

    健康保険には、病気やけがで働けない期間に生活を支える傷病手当金があります。国民健康保険には原則ありません。働けない期間の収入がゼロになるかどうかの差です。

  • 失業雇用保険があるか

    直接雇用なら、仕事を失ったときに失業給付が出ます。フリーランスにはありません。取引が終われば、その日から収入が止まります。

  • 仕事中のけが労災保険があるか

    直接雇用は全額会社負担で全員が対象です。フリーランスは原則なし。ただし特別加入という制度があり、加入していれば対象になります。

  • 税金給与所得控除か、経費か

    給与には、実費を計算しなくても差し引ける給与所得控除があります。フリーランスは実際にかかった費用を経費にします。経費が少ない仕事なら、給与のほうが有利になることもあります。

手取りで比べる順番

この順で計算すると、同じ土俵になります
  1. フリーランスの年間の報酬を出す

    月ごとに波があるので、12か月分を合計します。仕事が無かった月も入れて平均します。

  2. 仕事に使った費用を引く

    機材、通信、交通、家賃の一部など。実際に領収書が出るものだけです。

  3. 国民健康保険料と国民年金保険料を引く

    直接雇用なら半分は会社が払っています。ここが最も差の出るところです。

  4. 所得税・住民税を引く

    青色申告にすると、要件を満たせば特別控除が受けられます。届出が要ります。

  5. 仕事が無い期間と、働けない期間の備えを引く

    失業給付も傷病手当金もありません。その分を自分で積んでおく必要があります。ここを引かないと、比べたことになりません。

ここまで引いた額と、直接雇用の手取りを並べます。それでもフリーランスが上なら、裁量のぶんは丸ごと得ということになります。

フリーランスにも、守りは増えてきています

2024年11月から、フリーランス・事業者間取引適正化等法が施行されました。取引の相手との関係について、決まりが置かれています。

この法律で決まったこと
  • 仕事の内容・報酬額・支払期日などを書面や電子メールで明示する
  • 報酬は、原則として受け取った日から60日以内に支払う
  • 買いたたき、不当なやり直しの要求などの禁止行為
  • ハラスメントに関する相談体制の整備
  • 継続的な契約を中途解除するときは、原則30日前までに予告する

ただし、これは取引を適正にするための法律です。最低賃金や有給休暇が付くわけではありません。守りの厚みが、雇われて働く場合と同じになったわけではないことは、押さえておいてください。

なぜ、額面だけでは比べられないのか

会社は、月給30万円の人に対して、30万円だけを負担しているわけではありません。社会保険料の会社負担分、労災保険料、有給を取った日の賃金。これらが上に乗っています。

ところが、この部分は明細に出てきません。働いている本人からも見えないのです。

だから「同じ仕事なのに、フリーランスなら30万円もらえる」と聞くと、得に見えます。実際には、その30万円から、会社が負担していた分も自分で払うことになります。

比べるときに額面を並べてはいけないのは、このためです。見えていない部分の大きさが、左右で違います。

よくある勘違い

こう思われがちです
  • フリーランスのほうが単価が高いので、得
  • フリーランスは自由に休める
  • 経費で落とせるので、税金が安くなる
  • フリーランスには社会保険がない
  • フリーランスは働き方が自由なので、法律の守りは要らない
実際はこうです
  • 経費・保険料の全額・税金・備えを引いてから比べます
  • 休んだ分の収入はありません。有給はありません
  • 経費になるのは実際にかかった費用だけです
  • 国民健康保険と国民年金に自分で入ります。全額自己負担です
  • 取引を守る法律ができました。ただし労働基準法とは別のものです

決めるための1つの問い

この1問で決まります 仕事が3か月止まっても、生活が続きますか 続かない 守りを会社に用意してもらう形が合います。 直接雇用、または派遣です 続く 守りを自分で用意できています。 裁量を取る選択ができます
好みではなく、いまの生活で答えが決まります。生活が変われば答えも変わります。

働く人は、ここだけ覚えてください

働き方を選ぶ方へ

額面を並べないでください。経費・保険料の全額・税金・仕事が無い期間の備えを引いてから比べます。

そして、いきなり全部を切り替えないという道もあります。雇われて働きながら、副業として小さく始める。守りを持ったまま、裁量の側を試せます。

人に頼む会社は、ここだけ覚えてください

人に来てほしい会社の担当者へ

「社会保険がかからないから安い」という理由でフリーランスに切り替えるのは、危ない選び方です。指示を出しながら働かせていれば、実態は雇用や派遣と判断されます。

やり方も含めて任せられるなら、業務委託で頼めます。指示を出したいなら、雇うか派遣で頼むかのどちらかです。ここを曖昧にしたまま始めると、あとで実態が問われます。

まとめ

この記事で覚えてほしいこと
  • 額面では比べられない。会社が払っている分と、守りの厚みが見えていない
  • 差がつくのは年金・傷病手当金・失業給付・労災・税金の計算の5か所
  • 決めるための問いは「仕事が3か月止まっても、生活が続くか」の1つ
TODAY'S ACTION / 今日からできる、たった1つのこと

「仕事が3か月まったく無くても、生活が続くか」に Yes か No で答えを書く。

No なら、いまは守りのある形が合っています。Yes なら、裁量を取る選択ができます。迷うなら、雇われて働きながら副業で小さく始めるのが、いちばん失敗しない試し方です。1分で書けます。

そもそも法律上どこが分かれ目なのかは、別の記事で説明しています。契約書の題名では決まりません。

フリーランスと、雇われて働くことの違い

※ 2026年8月時点の制度にもとづいています。根拠:健康保険法99条(傷病手当金)、厚生年金保険法、国民年金法、雇用保険法、労働者災害補償保険法33条以下(特別加入)、労働基準法9条・39条、所得税法28条(給与所得控除)・57条(青色事業専従者給与)、租税特別措置法25条の2(青色申告特別控除)、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法。2024年11月1日施行)。保険料率・控除額・給付の条件は年度や制度改正で変わるため、この記事では具体的な金額を扱っていません。個別の計算は市区町村・年金事務所・税務署・お近くの専門家にご確認ください。

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